コラム「伸顕が斬る!」
我が国の雇用を立て直す職業教育 Part1
2014年3月19日 水曜日

◇特別寄稿◇ 日本国内における製造業拠点の再生(第5回・最終回)

我が国の雇用を立て直す職業教育

公益財団法人大田区産業振興協会
副理事長 山田 伸顯

1職業意識の低さが際立つ日本
 我が国は、大学への進学志向が高く、受験に向けて塾や予備校での学習が中心となる生活習慣が常態化してきた。大学の収容力は拡大し、今やどこでもよければ希望する生徒を全員受け入れる受け皿が用意されている。大半の大学では、特段の勉学を要しないで卒業できる仕組みとなっている。ところが、就職活動になると異常なくらい激烈である。学生にとっては、100社もの面接に臨むことは当たり前になっている。
 平成24年度の大学卒業者の就職率は、25年4月1日現在93.9%、25年度の内定率は、12月1日現在76.6%とそれぞれ前年度より上昇しているが、高等専門学校の男子学生は24年度就職率が100%で、25年度内定率は98.7%を示している。また、高校卒業予定者の学科別では、10月末現在普通科は50.2%に止まるのに対し、工業科は79.7%を示している。このように、就職という側面からとらえると、一般の大学卒や普通科の高校卒で就職するものにとって、高い障壁が社会参加を遮っていることが明らかとなっている。
 その障壁となるものは、職業に対する意識の低さである。ヨーロッパ先進諸国においては、後期中等教育段階では過半数のものが職業課程で学んでいるのに対し、日本では職業課程に在籍する生徒は20%台に過ぎない(法律文化社「日本と世界の職業教育」参照)。
 終身雇用と年功序列を基調とした日本型雇用形態が限界となり、そこにグローバル化の進展により製造業を中心に事業所の海外シフトが強まり、さらに人口減少による国内需要が縮小する。この状況下で、雇用の場は減少する傾向となった。採用は売り手市場から買い手市場に逆転してきた。そうなると、職に対する意識の差が就業を左右するのだ。
 こうした動向のなかで、日本でも国が職業教育を意識した学校教育へと転換を図るべく、「キャリア教育」を推進することとなった。
2職業教育の現状と課題
図1学校教育の意義として<br />「職業的技能の習得」を挙げた比率<br />(国別・最終学歴別 「第6回世界青年意識調査」1998年)<br />脚注:後期中等教育(日本では高校に相当)、中等後教育(高校より上の学校教育)
図1学校教育の意義として
「職業的技能の習得」を挙げた比率
(国別・最終学歴別 「第6回世界青年意識調査」1998年)
脚注:後期中等教育(日本では高校に相当)、中等後教育(高校より上の学校教育)
 職業教育において先ず着目すべきは、平成18年に改正した教育基本法第2条に「職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。」が規定されたことである。学校教育法も改正し、「職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。」を義務教育の目標とした。
 中央教育審議会は、平成20年12月、文部科学大臣から「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の諮問を受けて審議を重ね、平成23年1月に答申を行った。答申は、「若者の『社会的・職業的自立』や『学校から社会・職業への移行』を巡る経緯と現状」を述べている。
 15歳から24歳までの完全失業率は約9.1%、非正規雇用者の占める割合は約32%であり、若者の学校から社会・職業への移行が円滑に行われていない。産業構造・就業構造が大きく変化する中、常用労働者は平成20年までは不足感が高かったが、平成21年に入り過剰感が高まっている。それでも学生等は、大企業への就職を希望し、我が国の多くを支える中小企業をあまり志向しない。就職はおろか家事も通学もしていない若年無業者が、平成21年には約63万人も存在している。
 また、職業にかかわる能力開発では、新規学卒者の一括採用と、長期雇用を前提とした企業内教育・訓練が雇用慣行であったが、それを行う人材や時間の不足と育成にかける費用の縮小により、企業内教育・訓練を行う動機付けが低下している。
 次に、進学動向においては、高等学校への進学率が約98%まで拡大し、全生徒数の72%を普通科が占めている。18歳人口の約51%が大学に進学するなど、進路指導も進学に偏っている。高等学校卒業までに職業を意識したことのない大学1年生が31%もいる。答申はこうした分析を行っている。
 このように、教員や生徒・学生、保護者を含め、社会全体が職業に関する教育を重視していないといった職業教育の認識不足は大きな問題である。
 それでは、日本の青年層が「教育の職業的意義」をどのようにとらえているか、世界各国と比較した結果が出ている(図1)。これは、1998年に内閣府が実施した「第6回世界青年意識調査」において、すでに教育機関を卒業した18∼24歳の青年が、最後に経験した教育機関について「職業的技能の習得」で意義があったと答えた比率である(本田由紀「教育の職業的意義」)。
 ドイツでは初等教育の4年生を終了した段階で、大学を目指すか職業教育コースに進むかを選択する制度となっている。5年制の基幹学校、将来の中級技術者や中下級ホワイトカラーを目指す6年制の実科学校、大学進学を目指す9年制のギムナジウムに加え、総合制学校とハンデがある生徒が通う特殊学校という五分岐制となっている。
 基幹学校や実科学校を卒業すると、二元制度(デュアルシステム)の職業教育を受ける仕組みである。実践的なことを民間企業や公共事業所等の実際の職場で習い、理論的なことを職業学校で習うという二つの教育を同時に統一して習得するシステムである。手工業の分野では、「徒弟」、「職人」を経て「マイスター」という公的資格を持った職業教育指導者になることができる。ドイツ人のモノづくりに対する自負心は、こうした厳しい職業教育を体得したことに基づいているのだ。
前の記事 東海バネ工業の言い値で売る商法 Part2
我が国の雇用を立て直す職業教育 Part2 次の記事