コラム「伸顕が斬る!」
儲かる町工場経営に学ぶ Part3.
2010年4月26日 月曜日

財団法人大田区産業振興協会

専務理事 山田 伸顯

企画広報チーム主任 小杉 聡史

5.町工場の危機打開に向けて
工場内の様子
工場内の様子
 町工場の多くは下請け仕事を続けており、コストダウンを毎年求められ減価償却もできない赤字企業となっている。原材料が値上がりしても価格に上乗せすることも認められない。受注を無理に取ろうとして採算割れ覚悟でダンピングする企業もある。これでは一層自分の首を締めることになる。日本の町工場は技術が世界一でも、利益に対する執着心が弱い。利益に合わないものは断っても大丈夫なのだ。他ではできないので必ず戻ってくる。技術に自信を持つことが何より必要なことだ。受注するために安値合戦を繰り広げるといった、町工場同士の足の引っ張り合いはやめよう。
 そして、何よりも大切なことは、次代を担う後継者の育成である。そのためには、モノづくりを若者にとって魅力のある産業にすることが絶対に必要なのだ。利益の出る町工場になって、下請けに体力が戻れば、大手企業の足腰も強くなって、お互いに伸びていくことができる。
 梅原氏はこうした啓蒙活動をするために、全国に出かけて講演を行っている。身内を後継者にせず、会長ではなく相談役に退くという潔さに氏の真骨頂が表れている。モノづくりへの恩返しにこれからの人生を捧げようという生き方に、日本再生の方向性を学ぶべきである。

 次に梅原氏へのヒアリングから聞き取った語録を掲載する。企業経営の参考にしてほしい。
梅原語録(2009年11月11日視察見学会にて)
梅原 取締役 相談役
梅原 取締役 相談役
1) 『当たり前のことを当たり前にやる』

・今まで社員に利益追求とは言ったことはない。モノづくりは、いい品物を安く早くしかない。これはセールスポイントではなく、当たり前のことをやっている。全員が「いい品物を安く早く」という原則に沿って行動する仕組みが出来上がっているため、会議をする必要はない。
・当たり前のことを当たり前にやることが肝心であり、業績はあとからついてくるものである。
・会社の利益はみんなに賞与として還元している。(前月分の利益配分を掲示板に張り出している。)しかし、給与は普通でないといけない。人は誰かのためには頑張らない。
・短納期について、作業に特別の技術があるわけでなく、取り掛かるまでの時間を短縮している。(例 翌日に納品できるようにするため、注文の電話と同時に伝票を書き始める。)
・いいものを作るため、時間をかけるところは十分に取っている。

2) 『設備と人は、常に過剰』

・いい無駄は取ってはいけない。給料分働いていない人、休んでいても問題がない人がいる場合が無駄である。役員の中に多くの無駄があるため、当社には役員が2人しかいない。
・創業者が多くの給与をもらうことは公私混同である。いつも『論語』の「その行い、私心なかりしか」を自身に問いかけている。

3) 『税金を嫌がる経営者は、いい会社なんか作れない』
  
・アメリカとは違い日本の企業は雇用と納税(本田宗一郎の言葉)が務めである。企業が元気でなければ、政治もうまくいくわけがない。企業は利益をあげて納税することが、最大の社会貢献である。
・豊かな国にするためには、企業に利益をださせる必要がある。現状は企業の3割しか納税していない。7割は赤字である。5割黒字の企業を作っていけば景気もよくなる。

4) 『人づくりに必要なのは、言葉ではなく後ろ姿』

・人だけは育ててなくてはいけない。モノづくりの技術の継承は、10年単位である。
・社員に言葉でなく、行動で示している。
・社員を怒ることはあるが、辞めろと言ったことはない。また、金曜日に怒るとことはしない。次の日が休日のため、フォローができない。
・褒めてもいいが、位を与えてはいけない。役職を与えた人より実力がある人が出てきた場合に困る。組織を作る気はなかった。当社は自然体の組織(ガキ大将の世界、サル山の組織)であるため、分野ごとに実力がある人がトップとなる。責任はみんなに、利益もみんなにと言っている。
5) 『不況の時こそ他社との差をつけるチャンス』
  
・今までの世の中、好況の後に必ず不況がきている。また、不況がずっと続いたことはない。
・忙しいのは好況ではない。忙しい+利益が出ている状態が好況である。
・好況に稼ぎ、不況のときに機械のオーバーホール、人材育成、インフラを整備していく。
・好況と不況の見極めが重要である。今回の不況は、仕事がゼロになるなど分かりやすく判断は簡単であった。当社は業績が下がったときに、好況のときに貯めた内部留保にて、新しい工場を建てた。来年の今頃は忙しくなっている。
・借金をしてまで設備投資などすることはやめたほうがいい。

6) 『43年間、一切値上げなし』実現の背景
 
・値上げしなくても、毎年コスト削減をしているため、利益が出ている。当社はメーカーなので、下げたコストは自社利益として取ることができる。今まで、価格を下げるようにと取引先に言われたことはない。                           
・大企業は、為替で儲けたが下請け会社に還元しなかった。毎年コストダウンを言われ、材料費高騰した際も、値上げを認めてくれなかった。いいモノは、適正な価格で買ってもらうため、損をする受注は断る必要がある。
・週に一度は工場に顔を出しコスト削減を考えている。トップ自ら見て、提案していかないといけない。社員は問題について、言うことを我慢してから言うので、言われてから変えるのでは遅い。
・モノづくりは現場をみないと分からない。人の上に立つ人は、人より多く仕事をしないといけないのが常識であるが、守れていないことが多い。

7) 『ライバルは作ってもいいけれども、敵は作ってはいけない』

・社員に味方にしたほうがいい。当社が上場する前に、持ち株を正社員・パートの区別をつけず、経験年数で振り分けて売った。誰も文句は言わなかった。(相談役は、本当は15億円もらえたが、1円ももらっていない。)

8) 『経営者の引き際』
 
・クリーンな会社だから、他人に継がせた。製造業の90%は世襲であるが、社長と社員の見立てが合えば世襲は有効な手段である。

(参考資料「経常利益率35%超を37年間続ける 町工場強さの理由」(梅原勝彦 2008年3月 日本実業出版社)
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