コラム「伸顕が斬る!」
破産から再建へ part.3
2009年9月 4日 金曜日
財団法人大田区産業振興協会 専務理事 山田伸顯
4.産業振興・雇用確保こそ地域再生の道
 債務の返済が重たくのしかかり、地域の将来構想を描きづらい中にあって、しかも行政改革だけでは真の地域再生をもたらすことができない。夕張市の場合、あまりにも赤字隠しが衝撃的であったため、市の姿勢ばかりが問題として取り上げられた。これでは地域衰退の本当の原因を解明できないし、問題解決の方向を見出だすことができない。
 夕張問題は石炭産業からの転換という特殊性を持っているとはいえ、地域の産業構造をどのように再構築するかという意味では、どこでも共通する課題を有している。エネルギー政策の転換を推進した国の政策という点では、政府は責任を果たすべき義務を負っていた。根本的課題は地域の産業のあり方である。
 先述した隠岐の島にある海士町は、町税(1億7877万円)の7倍もの地方債償還(公債費12億5819万円、比率28.9%)に追われ、財政再建と産業振興に取り組んでいる(データは海士町平成18年度一般会計決算より予算現額ベース)。逼迫した財政ではあるが、産業振興に活路を見出すべく、隠岐牛のブランド化を図ったり、CAS(Cells Alive System)と呼ばれる凍結技術を導入することにより、特産の岩がきや白いかなどの海産物を新鮮なまま東京などの大消費地への出荷を可能としたりしている。離島のハンデを克服する新産業の創出が雇用の確保につながっている。
 夕張など炭鉱閉山後の地域において、鉱工業振興を図るべく財政面から援助していた産炭地域振興臨時措置法が2001年度に期限切れ失効となり、補助金によって延命措置を施されていた観光などの産業は危機にさらされた。製造業などの企業誘致が行われても、税財政の優遇期間が過ぎれば去ってしまう例も多く、補助金による産業構造転換と振興策が余り効を奏さなかった。
夕張市役所に掲げられた旗
夕張市役所に掲げられた旗
 一方こうした補助金漬けの地域振興策ではなく、公的支援を受けずに自立を勝ち取った産業がメロン農業である。平野部がほとんどなく、メロン栽培には適さない寒冷地域にあって、全国ブランドになった「夕張メロン」をつくりあげた農業者の努力は、同じ北海道の池田町において、「十勝ワイン」の生産とその元となるぶどう栽培に挑戦した苦労と並んで称賛に値する。火山灰の土壌は米づくりには向かないが、水捌けの良さが乾燥地に強いメロンの栽培に適し、寒暖差があることで甘味を増すという効用が得られた。
 夕張メロンは一代雑種である夕張キングのことである。夕張農協は、この種子を厳重に管理し、また、生産者とともに夕張メロンのブランド管理を徹底している。検査員による『共撰』という厳しい規格チェックと選果を行い、特秀、秀、優、良に選別して出荷している、規格外の玉はジュースなどの原料とする。地域団体商標が法制化される以前から、「夕張メロン」は「西陣織」と並んで、地域名だけで商標登録が可能であった商品である。
 「農」の重要性が叫ばれる今日、夕張のメロン農業の先駆性は高く評価される。しかし、市の人口急減は、農業における労働力不足を引き起こし生産供給力の停滞を招きかねない。地域の再生と産業の振興は相互の補完関係にあるのだ。
 また、新しい企業立地の動向も見られる。今年の4月から「花畑牧場」が夕張市の旧市有施設を購入し、「石炭の歴史村」に隣接した敷地にキャラメル工房をオープンさせ、7月にはショップと豚丼のレストランも開業した。100名程度の新規雇用を生み出すと同時に、夕張では唯一といってよい集客力を持つ観光スポットとなっている。人が集まることはそれだけで活気を生む。夕張メロンキャラメルも考案し売り出すことができた。しかし、人口を維持しないと雇用面で農家との競合が生じかねない。地域の崩壊という危機感が市からの移住を加速させたため、雇用の場が確保されるという認識をもたせることで市民に安心感を与えることが重要である。これにより市民の定住意識を呼び起こすことが人口流出を防ぐ第一歩であると思われる。
ホテルマウントレース
ホテルマウントレース
 市民自身による地域再生の動きも始まっている。「ゆうばり再生市民会議」、「除雪ボランティア」など、ネットワークを築いて自ら住民自治活動を行い、行政との協働を進めている。夕張市社会福祉協議会が運営する「ふれあいサロン」は、廃止された市の連絡所を活用し、有償ボランティアによる高齢者の生活相談等業務を行っている。NPO等の法人設立が相次ぎ、中でも「ゆうばりファンタ」は、国際ファンタスティック映画祭やフィルムコミッションの運営を担っている。行政依存型の市民生活が行き詰まり、市民によるまちづくりと地域の運営が夕張の再生に欠かせない状況となっている。
 そして最後に、あえて観光に再度スポットライトを当てるべきであると言いたい。観光に対する過大投資が市の財政破綻の一因となったことから、観光を取り上げることが市にとってトラウマとなっているように感じる。「めろん城」がどこにあるのか市の案内などにはっきり表示されていない。折角「石炭博物館」という他にはない貴重な施設があるのに、北海道の旅行ガイドにもわずかだけ掲載されている程度である。夕張駅からすぐにゲレンデに入れるというスキー場の価値が知らされていない。ホテルマウントレースイの宿泊客はアジアからの観光客だらけであった。映画祭などのイベントでは一過性の客を呼ぶことはできる。しかし、何といってもリピート客としてのファンになってもらうための仕掛けが必要である。その点、大分県湯布院でも映画祭を開催しているが、その他の観光客の集客にも努めており、夕張もこのことを見習うべきである。
 これまで自治体が破綻することが地域と住民にとってどのような影響を与えるかを見てきた。夕張問題は他人事ではない。どこの地域でも起こりうることである。東京を中心とする大都市への一極集中がもたらした過疎地域の貧困化、景気対策に巻き込まれて財政のばらまきを行ってきた各地の道府県や市町村の財政逼迫、国策に翻弄され疲弊している地域は他にも多数ある。何よりも、国自体が財政困窮に陥っているのであり、年間44兆円の税収(平成20年度決算見込み)に対して800兆円もの累積債務(国債)を負っている状況は、夕張の比ではない。GDPに対する比率が180%という先進国中最大の借金を国民に負担してもらっている国は他にはない。このままではただでさえ人口減少が加速している日本から、富裕層が国外流出を企てかねない。一般の国民は海外移住すらできず債務のつけを払い続けるしかなくなる。
 このように地域の破綻、国の破綻はすぐ間近の危機であるということを認識してもらえただろうか。経営者は自社の財務状況について、自分自身で認識できているだろうか。自社のバランスシートやキャッシュフローは大丈夫だとしたら、企業を取り巻く社会経済の財政状況に目を向け、政治の在り方についてしっかりと見定めることが必要だ。そうでないと、自分が知らぬ間に経営をめぐる環境が立ち行かなくなっているかも知れないのだ。
 企業も地域自治体も国の政府も、経営の戦略と政策を見誤っては破滅の道しかない。
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