コラム「伸顕が斬る!」
破産から再建へ part.2
2009年9月 3日 木曜日
財団法人大田区産業振興協会 専務理事 山田伸顯
2.夕張市の財政破綻
夕張市役所
夕張市役所
 税収のピークは1984年で21.6億円、それが2005年には9.4億円に、普通交付税のピークが91年で69.9億円、それが05年には31.1億円に減少している。しかし、例年の決算では黒字となっており、05年度においても普通会計の実質収支は8.5億円の黒字と発表されていたが、実際には9.8億円の赤字であった。特別会計を入れると実質的な赤字額は257.3億円にもなっていた。北海道庁の調査で分かったことは、夕張市が抱える長期・短期を総計した債務残高が632億円という巨額に達していたということである。これまでの地方自治体の中でも未曾有の借金倍率である。
 とうとう粉飾決算が隠しきれず突然明るみに出た。2006年6月10日に北海道新聞に財政破綻がスクープされ、同20日の市議会で財政再建団体の申請を北海道庁に行うことを決めたことにより、それまで行ってきた隠蔽工作が発覚した。
 この赤字隠しの財務処理は、民間企業会計と役所の一般会計との交錯した期間を利用した巧妙な手口である。4月1日から5月末日までは、出納整理期間という役所の会計処理に認められた特別な扱いが行われる。つまり、これは前会計年度末までに確定した債権債務について、現金の未収未払の整理を行うために設けられた期間であり、年度内に歳入と歳出を確定させるため、現金の出納整理を行うために2か月の処理期間を設けたものである。企業会計と違って、一般会計においては未払金・未収金という処理はできない。これを逆手に取り、この2か月を利用した赤字隠しである。
石炭博物館
石炭博物館
 夕張市の一般会計、観光事業会計(公営事業会計)及び第三セクター間でどのように資金がやりくりされていたのか。公営事業会計など他会計は企業会計と同様に行われる。先ず、「石炭の歴史村」などの観光事業を実施している第三セクターに対し、通常の運営委託以外に赤字を避けるための委託費用などを観光事業会計から支出する。観光事業会計は第三セクターからの売上金や償還金が入っても常に赤字で資金繰りができなくなる。そこで一般会計から観光事業会計に貸付けを行って、企業会計の年度内における資金繰りの帳尻を合わせる。一般会計にも貸付けの原資はないので、金融機関から一時借入金を借受けてそれを充当する。4月1日以降企業会計から貸付金を償還させるが、企業会計としては新年度会計で処理することができる。役所の一般会計では5月31日までに貸付金が償還されていれば前年度の会計処理を行うことができる。一時借入金は支払い資金の不足を臨時的に賄うために、同一年度内に償還する条件で借り入れるものなので、借受けた前年度で処理することが絶対必要である。企業会計と一般会計の交錯する出納整理期間を利用(悪用)した赤字隠しの手口である。
 毎年実質的な赤字額は膨らむ一方なので、借受ける額も増大していく。一時借入などの短期借入金残高が276億円(05年度)にも達した。他に、起債などの長期借入金残高205億円など合計632億円の債務となったというわけである。この間市議会のチェックも監査委員による指摘も行われなかった。起債の許可を行う北海道も第三セクターを含めた連結決算を基に判断してきたとは言い難い。
 そもそも夕張市の財政自体が極めて硬直的で、経常収支比率(地方税、普通交付税などの一般財源に対する人件費、扶助費、公債費のような経常的支出の割合)が116.3%に達し(全北海道92.0%)、うち人件費が50.9%、公債費が29.6%となっている。地方税だけでは人件費も賄えない状況であった。
※図をクリックすると拡大されます。
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3.財政再建に向けて
めろん城
めろん城
 2007年度から財政再建計画がスタートしたが、06年度にも独自の歳出削減に取り組んだ結果赤字残高は最終的に349.6億円となった。これを18年間で償還しようという計画である。投資的経費は原則として計上せず、経常的経費は必要最小限とする。市民に対して市税と使用料等の引き上げを求め、かつ行政サービスは最低限に落とさなければならない。小学校を7校から1校に、中学校を4校から1校に統合、養護老人ホームの民間移譲・子育て支援センター事業の廃止、図書館を廃止し、保健福祉センターに図書コーナーを設置、美術館の指定管理者による運営、公共施設の廃止や統合、病院の診療所への縮小並びに公設民営化、市役所の出先である連絡所の全廃等々に踏み切らざるを得ない。あまりの厳しさに総務省も配慮し、廃止予定の高齢者敬老パスを値上げしつつも存続させ、プールを夏季限定で1箇所存続、公衆トイレを高齢者に配慮し2か所存置するなど復活した事業もある。また、北海道の支援策として、赤字相当額を低利融資し、道職員の派遣、医療給付事業に対する負担、バス事業者に対する補助金交付、道路除雪の実施などを行うこととなった。
幸せの黄色いハンカチ広場
幸せの黄色いハンカチ広場
 市民に負担を強いるだけでは済まない。市財政の中で最も大きなウェイトを占める人件費にメスを入れることにした。一般の職員数は人口千人当たり20.35人で、類似団体9.75人と比較して約2倍となっていた。人口1人当たりの人件費は約18万4千円で、類似団体の約9万5千円の約2倍であった。一般会計職員を2006年度269人から10年度には103人に4年で6割減に、給与は、同様な財政再建問題を抱える島根県海士町の例を参考に30%減にし、各種手当の廃止・削減と合わせて平均年収は05年度の632万円から368万円に4割以上減額することになった。退職金も07年50か月から毎年10か月ずつ削減し、10年度以降は20か月とするなどとしたため、消防などを含む夕張市全職員309人のうち約5割に当たる151人が退職し、人員削減計画は初年度でほぼ達成することとなった。その結果、20歳代と30歳代の職員が大幅に減少した。残ったのは再就職が難しい中高年の職員である。組織も5部17課30係から1室4課10グループとスリム化した。特別職給与と議員の報酬も大幅に削減し、市長の給料は862万円から259万円となった。
 夕張市の職員の不足を補ったり、財政再建推進を担ったりするために、市に対して道庁から職員が派遣され、東京都庁からも研修職員が派遣されている。
 これまでの財政再建計画は、「地方財政再建促進特別措置法」に基づき策定された。1955年に制定された同法には、一般会計と特別会計、公営事業会計及び第三セクターなどの会計間での不適切な処理により破綻するなどという事態は想定されていなかった。そこで(1)公営企業や公社・第三セクターなどを含めて監視対象とし、(2)単年度のフローだけでなくストック面にも着目して財政判断できるようにし、(3)早期に財政悪化を把握して改善を図ることを目的に、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(自治体財政健全化法)」が07年6月15日に成立した。夕張市の財政破綻がきっかけとなったと言える。夕張市も今後この新法の下で再建が図られることになる。


※次回に続く(明日アップ予定)
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