コラム「伸顕が斬る!」
逆転の発想で生き残る   ―100%錫の鋳造技術で確立した能作ブランド― Part 2
2012年4月 2日 月曜日
4.非営業のスタンス
鋳物の型
鋳物の型
 能作のオリジナルとしての100%錫の製品は、これまでの金属のイメージを払拭する画期的な発明であるといっても良い。シェフが料理に合わせて皿の形を変形させたり、酒の種類や気分によって盃の飲み口をつぼめたりできる。テーブルの上の置いた網状の置台がその場で果物の籠に変化したりもする。世界初の技術は瞬く間にブランドを確立した。
しかし、鋳物技術の産地では、問屋を通して小売で販売するという慣行があり、直接売り込むことは躊躇せざるを得ない。一般の銅器は、従来通り問屋からの注文に基づいて製造しているというつながりもあり、それを逸脱することは困難である。したがって、能作では営業のスタッフは置いていない。それでも、富山県が主催する展示会や、東京で開催される展示会に県が企業を共同で出展させる機会をとらえて参加することは可能である。そうこうして知名度を上げるうち、三越や松屋などのデパートから出店の要請を受けるようになった。能作は、他県で取引するときには、問屋に納入している商品は県外に出さないという産地の商売ルールを尊重している。そこで独自商品に限っての販売を行うことを条件に出店を受託した。地場において敵対関係をつくらないという経営戦略である。
 東京にショップを進出させて驚いたことは、情報の発信力が格段に違うことである。デパートでの坪当たり売り上げも飛躍的に上昇した。販売ルートが確立されてくると、問屋との関係が大きく変化し始め、問屋から逆に仕入品の販売を依頼されるようにまでになった。ここまで来るのに悩みぬいた年月は長かったが、この10年間で一気に爆発した感じである。自信を持ってあきらめずに続けることが成功への道だというのが信条である。今では市場の需要は確保できるので、仕事量は十分にある。問題は供給力である。

5.産地における協同化
旋盤で成型する
旋盤で成型する
 能作の本社・工場は、敷地面積が高々1000坪、従業員が40名という体制で、拡張の余地がない。高岡には約90軒の鋳物屋がある。そこで、産地を巻き込み、工程の一部を外注化して仕上げなどを分担してもらうことなどを考えている。しかし、ここで課題となるのは、産地特有の商慣習である。
 先述したように、銅器は問屋制家内工業により生産から販売をつなぐ流通が確立しており、しかも生産量が全国で圧倒的シェアを占めているため、市場競争が限定されている。小売りにおいては定価ではなく、常に値引き表示での販売が行われている。今日のようなネット市場で価格が公開される時代には、産地だけに通用する適当な値付けをしていては信用を得られない。また、産地では技術に対して知的財産が存在するという認識が低く、安心して技術を開示できない。協同で制作にあたる企業には、能作の有する特許や知的ノウハウの権利を尊重してもらうという当り前のコンプライアンス(法的遵守)に立ってもらわなければならない。産地の意識変革を促していく必要があるのだ。
 こうして、産地全体の生産連携が取れるようになれば、全国さらには世界の需要に対応するような地域の供給体制を構築できる。協同関係を持った新しい産地の創設が可能となる。
6.イノベーションの探求
錫の鋳物
錫の鋳物
 産地の協同化を促すことは同時に、能作として自社のイノベーションに邁進することができる。
 現在取り組んでいることは、砂型ではなくシリコンの型による鋳造法の開発である。
 錫の鋳造には真鍮のように後加工を施すことができない。真鍮は融点が1100℃あるため、冷えて固まった製品を仕上げするための削り出し(成型)が可能である。しかし、融点の低い錫は固まりやすく、しかも粘っこいため、型から外した段階で成型による調整を施すことができない。したがって、後工程がいらない完璧な砂型が必要で、ほぼ完成品を生み出す作業が求められる。伝統に立脚した技能を高める事で、そうしたレベルの砂型を作り出す段階まで技術を構築してきた。
 しかし、ひとつずつ完璧な砂型を作って錫を鋳造していたのでは非効率である。そこで錫が230℃で融解するのに対し、250℃の融点をもつシリコンに注目した。シリコンの型は砂型のように鋳造のたびに壊す必要がなく、300個の製品づくりが可能である。
 また、高度なデザイン性を発揮できるシリコン型の可能性は大きい。「伝統を踏まえながら新しい技術を築くべき」という信条をもってイノベーションにチャレンジする。これが能作の生き方である。この経営姿勢に感動した若い人たちが、一見すると決してきれいな仕事場とは思われない製造所に、意を決して入社してくるようになった。新入社員にとっても、創意工夫に自らの生きがいと仕事のやりがいを見出すことは何よりの喜びとなるに違いない。人材育成に対する会社の姿勢が評価され、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の審査委員会特別賞に選ばれた。
砂型作りに励む女性職人
砂型作りに励む女性職人
前の記事 逆転の発想で生き残る   ―100%錫の鋳造技術で確立した能作ブランド― Part 1
東海バネ工業の言い値で売る商法 Part1 次の記事