コラム「伸顕が斬る!」
社員の成長が企業の成長Part2.
2011年9月 2日 金曜日

公益財団法人大田区産業振興協会

専務理事 山田 伸顯

4.ES(社員満足)を追求するための自律的社員の育成
表彰式でスピーチする近藤社長
表彰式でスピーチする近藤社長
 企業の成長のためには社員のモチベーションを上げ続けなければならない。これを実現するために、人事制度に関して抜本的な変革を行った。それには労組委員長と経営者の経験が活かされている。
 従来は、製造業である親企業に倣って年功序列型賃金体系を採っていた。しかし、業態の異なる貿易商社では、やってもやらなくても同じという一律的な人事評価ではかえって不公平を生む。販売するものがそれぞれ異なっており、また、できる人とできない人とでは業績が全く違ってくるからだ。そこで、「インセンティブ制度」を導入することを社内に提起した。一方で「チームワークの強化」を同時に図ることとした。一見相反する制度であるが、単なる個人主義ではなく、他者との協力、チームプレイを組み込んで評価するようにしている。
 基本給は下げないことを原則にしているが、賞与は、成果主義の観点から個人の稼いだ粗利の3%を還元する「成果賞与」と職種ごとに人事考課を行い決定する「考課賞与」とでバランスを取っている。また、英語力(日本人社員は最低TOEIC500が必須)やITリテラシー、対人関係能力などを評価する基礎能力手当や管理職の役割手当、そして生活給的な調整手当などを組み合わせた賃金体系を構築した。かつ毎年報酬制度の見直しを行っている。さらに、社員が経営理念・目的・目標に対して理解し、実践しているかということも重要な評価項目としている。
 こうした人事制度を考案するに当たり根底にあるのは、“ES”(Employees Satisfaction、社員満足)という見方である。成果主義が成果を上げるためには、社員一人一人が自律して能力を高めなければならない。「自分は何をやりたいのか」「何ができるのか」「やりたいことをやるためには、どういう能力を開発しようか」ということを自問自答する自律的な人材が必要である。自分の価値観が何であり、その価値観に合った仕事をしているのか、自分の動機に基づいて能力を開発しているのかということに応えることがESである。このことは、自分自身でキャリア開発を行う「キャリア自律」と同じである。
 かつての終身雇用といった長期安定雇用を前提とした時代には、組織主導でキャリアも管理されていた。社員が主体的にキャリア形成を意識する必要もなかった。しかし、会社が組織的にも拡大する高度成長が終焉し、長期雇用から人材流動化の時代に移行してきた。雇用の流動化により、新卒者採用よりも経験者採用が増加する中で、転職者が就職先の企業に何を求め、どういうことに満足感を持つかは、採用した企業にとっても、優秀な人材を社内に定着させ、戦力化する観点から重要なポイントとなっている※。

 日本レーザー社の新しいスローガンは、「信頼。魅力、そして共感」”Confidence, Appeal, and Respect”(頭文字をとってCAR)である。上下関係ではなく信頼関係に、また互いに魅力ある存在になろうという意味である。
 良いサプライヤーを発掘したり、良い顧客との良好な関係を維持したりといった信頼関係を構築することが専門的輸入商社にとって必須であるが、キャリア自律によって自分が何をすべきかを認識できるようにならなければ、自身の価値と魅力を発信することはできないので成果も上がらない。
 「自律」は、自分の仕事は自分でこなせるという「自立」にとどまらず、他者のニーズを把握し、それと調整しながら自分をコントロールして自己実現を図るという意味である。自律的なキャリア形成こそが社員満足につながり、成果を高めるということに着目し、それを促進する仕組みを構築したことが日本レーザー社の18年連続黒字という快進撃を生んでいる。
5.おわりに
 近藤社長が常に心がけていること。
 「部下からの報告には、いつもニコニコして聴く。特にいやな報告の時はなおさらニコニコすること。上司が不機嫌な顔で部下の話を聴けば、次には受けるべき報告も上がってこない。」
 心に留めている言葉。
“There is no way to happiness.”
“Happiness is the way.”
「幸福になるための普遍的な道もなければ、一般的な条件もない。こうなったら幸福になれますということはありえない。」
「幸福になりたいと思って努力する過程、生きていくプロセス、そうした日々の実践の中に幸福がある。」


※慶応義塾大学キャリア・リソース・ラボ代表である花田光代総合政策学部教授によれば、「転職者が新しい職場、組織で何に満足感をもつかというと、1.日常的に成長を実感できるような仕事につけているか(短期的視点)、2.将来につながるキャリアの幅の拡がり感をもてるかどうか(長期的視点)、そして、3.現場において、互いの成長にかかわりあい、刺激し合い、相互に支援を行うことのできる職場環境があるかどうか(現場の人間関係)が重要」ということである。帰属意識からキャリア意識への視点の転換が必要と述べている。
(「帰属意識からキャリア意識へ:投資型キャリア意識の涵養を」)

参考図書
近藤宣之「変化する企業社会とキャリア形成」(財団法人富士社会教育センター 平成18年7月)
アタックスグループによる経営事例研究「Case X 株式会社日本レーザーの事例」(鈴木茂和氏分析)
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