コラム「伸顕が斬る!」
儲かる町工場経営に学ぶ Part2.
2010年4月23日 金曜日

財団法人大田区産業振興協会

専務理事 山田 伸顯

企画広報チーム主任 小杉 聡史

3.中小企業経営の極意
エアシューター
エアシューター
 エーワン精密は、コレットチャックのトップメーカーであっても、これまで一度も値上げをしたことがない。40年前と比して、当然人件費も上がり、材料の値上がりがあった。しかし、売値を上げずに経常利益率を維持してきたということは、生産性をそれだけ上昇させてきたことを意味している。そのためには、一見過剰と思われるほどの設備投資と人材育成に対する投資を続けてきたのだ。人と設備は少なすぎてはいけない。また、在庫は多すぎても少なすぎても効率が悪い。
 同社の最大の強みは短納期である。注文が来ると予想される製品には、8分方仕上げた仕掛品などを作っておく。これはよい在庫である。売れそうもない製品のための在庫は悪い在庫である。機械の稼働率は3割くらいの余裕を持たせておけば、急な注文にも対応できる。

 山梨工場はITなどで武装されているのではないかと思われる。しかし、意外なことにデジタル的な仕組みは、入金と売上の管理のため早期にオフコンを導入し、POSによるバーコードで在庫の管理を行っているが、パソコンネットワークがあるわけではない。代わりに迅速な納期対応に威力を発揮しているのは電話とファックスである。本社で受けた注文をファックスで受け取った工場では、何とエアシューターで注文伝票を現場に回しているのである。それをそのまま作業指示書として使っている。顧客から注文を受けてから作業に取り掛かるまで5分とかからないということである。工程管理や納期管理はやっていない。すぐ取り掛かることができるため、受注残を抱えないから余計な管理は必要ないのだ。

 短納期こそ収益の源泉である。品質に優位性があり値段が適正であれば、他社にはできないスピードがあるため受注を逃すことがない。ただし、適正な売値とは、不況のときのしのぎ代を織り込んでおくということが必要だ。不況期にリストラしたり、資金を借り受けたりというは最悪である。内部留保でしのげるよう好況時には蓄積できるようにしなければならない。それに加えて、次世代育成のために投資できるコストも含めるべきである。不況時に安易に価格を下げないことも重要である。

 もうひとつの重要な戦略は、顧客と直結するという体制作りである。中間の業者を介在させないで、製品発送も社員が自ら行うという自前の販売網を持っているのだ。製販一体を貫いてきたことも高い収益性を保つ秘訣である。

 こうして自己資本比率95%という優良企業を育て上げた。
4.人を大切にする経営こそ利益を生む
業績を張り出している掲示板
業績を張り出している掲示板
 エーワン精密は終身雇用の会社である。また、給与は悪くはない水準だが、儲かった分は実績に応じて賞与で社員に還元するという方針である。本社経費などの無駄は徹底的に省くけれども、工場の照明は明るくし、社員の目が疲れないよう配慮している。株主は軽視しても社員は重視するという姿勢を示しているのだ。

 社員重視がよく現れたエピソードとして、ジャスダックに上場するにあたり、梅原氏の株を放出し社員に分配したが、勤続年数に応じて割り当ての株数を決め、パートにも同じ条件で株を取得させたことである。こうして自社意識が高まり、会社の数字に皆が関心を持つとともに、いっそうやる気が出るようになった。業績は日々掲示板に張り出し、全員が確認できるようになっている。

 また、会社組織の作り方も実にユニークである。従業員数100名以上の会社であるが、役員は2人だけである。それ以外の管理者を置かない。組織や肩書きがないのである。これを評して、「サル山のサル」を思い浮かべれば良いと言う。しっかりと仕事ができるものが自然とリーダーとなればよいのであって、なまじ肩書きを持つと仕事ができなくなっても上に立とうとする。それは迷惑であり、効率を落とすことになる。そういえば、同社では決算短信の問合せ先責任者も社長になっている。同じような考えで、経験者を採用しない方針である。以前の知識が邪魔をして同社のやり方になじまない。素人を育てるほうが仕事を覚えるのも早い。同様に派遣社員も使わない。社員全員で責任を取れる体制を構築しているということである。
※次回に続く(次週アップ予定)
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