コラム「伸顕が斬る!」
すべての世代が労働による社会参加できるために
2010年4月15日 木曜日
財団法人大田区産業振興協会 専務理事 山田伸顯
平成21年度「若者と中小企業とのマッチングフェアin大田」会場の様子1
平成21年度「若者と中小企業とのマッチングフェアin大田」会場の様子1
 日本の人口は2005年から減少に転じたが、労働力人口(就業者と失業者の計)はそれより前の1998年をピークに縮小を続けている。総務省の労働力調査によると、2009年の労働力人口比率が59.9%と戦後初めて6割を割り込んだ。65歳以上の高齢者比率の増大が主たる原因と考えられる。しかし、問題なのは15歳から24歳までの若年層の労働力人口が、比率とともに低下しているにもかかわらず、若年層の失業率が9%台の高位にあることである。
厚生労働省及び文部科学省の調査によると、2010年の大学の就職内定率は、2月1日時点で前年同期比6.3%減の80.0%となっている。これはバブル崩壊後の就職氷河期の81.6%をも下回っており、1996年より行われている同調査で過去最低の結果となった。また、高校生の内定率も1月末時点では前年同期比より6.4%低い81.1%である。2割に上る新卒予定者が内定を得られない状況である。就職できない若者が全国に溢れ出ようとしている。
平成21年度「若者と中小企業とのマッチングフェアin大田」会場の様子2
平成21年度「若者と中小企業とのマッチングフェアin大田」会場の様子2
 リーマンショック以降日本の実体経済の悪化が顕在化し、雇用の縮小を引き起こしている。しかし、建設業や製造業などを筆頭に多くの業種で就業者数が減少している一方、医療・福祉分野では2002年からの7年間で147万人(31%)増加している。特にその中で、老人福祉・介護事業の従業者数の増加が著しい。事業所・企業統計調査で2001年と08年を比較すると、全体でおよそ40万6千人増の92万人となり、男性では11万5千人から23万人に倍増している。昨年10月に政府の緊急雇用対策本部が打ち出した「緊急雇用対策」でも、介護分野を成長分野と位置づけ「働きながら職業能力を高める」雇用プログラムの推進等に取り組むとしている。それほど人材不足が生じているということである。
「プレ就職面談会」会場の様子1
「プレ就職面談会」会場の様子1
 これら医療・福祉関連の事業所の98%は、常用雇用者100名以下の中小企業である。医療・福祉に限らず、この不況期の厳しいときこそ人材確保のチャンスと考える中小企業はかなり多い。しかし、優れた人材を必ずしも十分に採用できるわけではない。産業能率大学が昨年11月末実施した調査によれば、今春採用予定より人数が不足すると答えた企業は34%にも達している。この背景として考えられるのが若者の就職意識である。大学生の就職意識は、多少下降したとはいえ相変わらず大手企業志向が高い。それでも厳しい就職環境を反映してか、減少傾向にあった「ヤリガイのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」という回答が増加している。本年調査した2011年3月卒業予定者では43.4%となり、「中堅・中小企業がよい」と合わせると47.6%で「大手企業がよい」を少しだが上回っている(毎日コミュニケーションズ「大学生の就職意識調査」)。
「プレ就職面談会」会場の様子2
「プレ就職面談会」会場の様子2
 中小企業は事業所数が全体の99.8%あり、従業者数が87.7%を占めることから明らかなように、日本の産業の主軸を担っている。就職先の大半が中小企業にもかかわらず、若者の中小企業に対する志望動機は決して高くない。そこで、国や自治体では、中小企業の魅力を若者に伝えるべく、様々な出会いの場を設けてきた。ひとつは、経営者自ら自社の技術や特長を語り、そのメッセージを受け止めた若者がやりがいを見いだしていく、中小企業とのマッチング事業である。また、子供たちが「生きる力」を身につけ、社会人・職業人として自立していくことができるようにすることを目指して「キャリア教育」が提唱されている。高校生のインターンシップや小中学生の職場体験を通じ、実社会との接点を年少期に持つことによって、自分の生き方を考えるきっかけを与える学習も始まった。
 情報過多の時代において、日常的に仮想空間でのゲーム感覚に慣らされている年少者にとって、実社会の活動に参加することはかえって新鮮な体験となる。少子化社会においては、ひとりひとりの若者がより貴重な人材として育成されなければならない。団塊の世代がひしめいていた時代と異なり、落ちこぼしは許されないのだ。そのためにも社会性を早期に身につけ、学ぶことや生きることの意義を自覚できる様々な機会を用意する必要がある。
農協に出荷された葉っぱ
農協に出荷された葉っぱ
 一方で、高齢者が社会参加を続けることも、生きがいの観点だけでなく、年金や医療など増加の一途をたどっている社会負担を軽減する上から求められている。65歳以上人口が50%を超える限界集落においても、高齢者が元気に仕事している地域が現れている。代表的な事例は徳島県上勝町である。この町は「葉っぱビジネス」で全国的に有名になった。
パソコンを操作するおばあちゃん
パソコンを操作するおばあちゃん
 おばあちゃんたち(中には90歳を超える)が、料理屋のつまに出す葉っぱを集めて、農協を通じて全国に出荷する事業を確立したのだ。株式会社「いろどり」の横石知二代表が仕掛けたビジネスである。年商1千万円を超える農家も現れ、高齢者が子供たちと孫のために家を新築したため、多くの家族がUターンしてきた。老人医療費は県下で最低水準となり、最も元気な町である。働くことに勝る治療と健康法はない。
若者から高齢者まで生きがいを感じて労働し、社会参加する仕組みを構築することが、これからの日本が取るべき基本戦略である。

※日刊工業新聞3月22日掲載記事に基づき加筆した
前の記事 破産から再建へ part.3
儲かる町工場経営に学ぶ Part1. 次の記事