コラム「伸顕が斬る!」
東海バネ工業の言い値で売る商法 Part2
2013年1月 8日 火曜日
3.IT活用がもたらす微量受注
巨大バネ
巨大バネ
 注文主は製造事業所とは限らず、中には個人もいる。また、定期的に仕事が出されるわけではなく、何年間も注文がなかった顧客から突然発注してくる場合もある。このためはるか以前に受注したバネについても、データを保管しておく必要がある。しかも、納期については絶対に守る体制を形成しておかなければならない。したがって、こうした様々な顧客管理にはITが不可欠である。顧客からの受注管理に始まり、協力会社への発注・仕入れ管理を含め、社内の生産・在庫管理・図面管理、そして会計システムに至るまで全体のシステムを構築する。さらに、こうした基幹業務プロセスをWeb上に公開することにした。リオダ(Repeat Order System)というシステムにより、過去に注文したことのある顧客は注文履歴から簡単に再発注できる仕様をつくった。今では、IT経営に取り組み始めた03年度と比較して、1000社の新規顧客が増え、売上高も1.3倍に増加した。しかし、これは短期間で完成したものではない。一品物生産を積極的に受注する体制づくりとオーダーした注文主の顧客データベースの構築に30年もの年月がかかっている。
 Webに公開する以上、バネに関するあらゆる情報をサイトに掲載している。基礎知識から技術情報、活躍事例集など、バネに関して困ったことや使い方を分かりやすく解説しており、実に親しみやすいホームページとなっている。これまでバネに慣れ親しんでいない一般の消費者でも注文が出せる気になってくる。
 東海バネの社員も、過去に発注したことがある人から電話で問い合わせられたときには、以前製作したものをデータベースで検索できるため、納期を含めて即答できるようになった。顧客にしてみれば、しっかりとした管理システムに対し高い信頼を抱くことができる。
4.経営姿勢の根幹
バネの焼き入れ
バネの焼き入れ
 値引きに応じない「適正価格」で売るには、品質はもちろんのこと、99.99%の納期順守、そして顧客の満足獲得が必須である。それには一つひとつのオーダーに対してきっちりと応えようとする職人の技量が欠かせない。機械がほとんどの工程をこなすことができる技術と違い、人の技が根本的に重要だからである。技を支える社員のモチベーションを高めることが大切であり、従業員満足度が最重要である。渡辺は「会社は社員のためにある」と心の底から思うようにしている。
 東海バネには、社員の技術に対する向上心を重視し、伝承の仕組みを採っている。「ビクトリー・ロード・システム」という資格取得や研修の費用を会社が持ち、年齢に応じて年間2から5万円を補助している。資格取得時に報奨金を支給し、給料と賞与に跳ね返る制度である。国家検定「金属バネ製造技能士」を取得すると、海外研修旅行の報奨も受けられる。
 給料レベルも同業種の会社より100万円以上は高く支給し、有給休暇については、取得しないと上司を含めて賞与を減額する。権利を有効活用しなければならないという社風を形成しているのだ。人件費は経費としてとらえず、人財育成の将来投資と位置付けている。
 こうして社員尊重の基本的条件を満たした上で、困難な仕事達成に向かうポジティブな姿勢を重視し、内的モチベーションを喚起している。
 この姿勢は仕入先に対しても同様で、対等なパートナーとして協力関係を維持している。
 また、材料在庫を大量に保有している。少量しか使わない材料は容易に調達できないため、納期の達成率を維持するためには、先行して保管しておく必要がある。人件費に対する認識とともに、在庫管理も財務から判断する通常の経営とは全く異なっている。それでも、営業利益率は20%を超えている。
 こうした経営姿勢を評価され、05年に経済産業省IT経営百選最優秀賞を受賞、06年に元気なモノ作り中小企業300社に認定、08年にはポーター賞を受賞している。
 東海バネ工業の経営方針は、失われた20年を経緯している日本のデフレ経済と対比して、それを克服する中小企業の実践例を提起している。燃料と原材料費の値上がりにもかかわらず、コストダウンを強いられる下請中小企業は、このままでは何の打開策を切り開けない。どのような大企業からの受注であっても、技術提供に関しては対等な企業関係であるべきである。安易な値引きに順応することは、誇りを持って仕事をやり抜くという姿勢ではない。「やること」と「やらないこと」を明確に定めた経営戦略は、これからの中小企業の生き残りに当たって大切な示唆を与えてくれる。中小企業は「デフレ・マインド」という縮こまり志向に陥ってきた。これを克服するには、仕事を選ぶこと、値切りを迫る顧客は相手にしないことである。困難な技術を要するものには果敢にチャレンジし、社員を成長させながら究極の顧客満足を確保することが決定的に重要なのだ。
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