コラム「伸顕が斬る!」
我が国の雇用を立て直す職業教育 Part2
2014年3月20日 木曜日
 

◇特別寄稿◇ 日本国内における製造業拠点の再生(第5回・最終回)

我が国の雇用を立て直す職業教育

公益財団法人大田区産業振興協会
副理事長 山田 伸顯

3非正規雇用の現実にどう向き合うべきか
図2雇用形態別雇用者数の推移<br />(労働力調査・2001年以前は労働力調査特別調査)<br />(注1)「労働力調査平成25年(2013)7∼9月期<br />平均(速報)」総務省統計局<br />(注2)「就業形態の多様化に関する総合実態調査」<br />(平成11年、平成22年)厚生労働省
図2雇用形態別雇用者数の推移
(労働力調査・2001年以前は労働力調査特別調査)
(注1)「労働力調査平成25年(2013)7∼9月期
平均(速報)」総務省統計局
(注2)「就業形態の多様化に関する総合実態調査」
(平成11年、平成22年)厚生労働省
 先の答申は、就業構造の変化とそれに対応できていない学校教育における職業教育の問題点は摘出している。しかし、職業意識において最も重たい課題である非正規雇用者に関する指摘は十分とは言えない。
 「また、非正規雇用者の増加は、職業能力の形成の上でも問題を生じさせている。非正規雇用者は、正規雇用者に比べて企業内教育・訓練を受けられる機会が限られているため仕事を通じた能力の向上を図りにくく、正規雇用となるためには自発的な取組による能力の向上を求められる傾向にあるとともに、企業は中途採用を行う際に専門的な知識・技能を重視する傾向にあるため、キャリア形成を図る上でも課題がある。」とだけ記載されている。これでは、正規雇用者として就業させることがキャリア教育の目的なのか。非正規化した若者はどうすれば良いのか。
 非正規雇用の構成比を見ると、1984年に15.3%であったが2013年には36.3%にまでほぼ一貫して上昇し、重要な雇用形態となっている(図2)。中でも、15∼24歳の割合が最も高く、若年雇用問題を引き起こしている。非正規就労する理由として、正規の職員・従業員の仕事がないからを挙げる割合が、男性で30.2%、女性で13.2%ある。都合のよい時間に働きたいとか家計の補助・学費を得たいといった自己都合とは別に、不本意ながら非正規となっている実態が浮き上がる(注1)。また、1999年と2010年を比較した別な調査でも、男女ともに不本意就労の割合が大きく伸びている(注2)。
 労働条件の中でも、賃金の格差が顕著である。厚生労働省の「平成24年賃金構造基本統計調査結果の概要」によると、正社員・正職員の賃金を100とすると、正社員・正職員以外(非正規)の賃金は、男性で64、女性で69となっている。
 厚生労働省は、雇用期間に限りのあるパート労働者も、正社員と同じ仕事をしている場合は、賃金などの待遇面を正社員と同等にするよう法改正する予定だ。
 今までも、非正規労働者の雇用の安定を図る措置が行われてきた。平成24年には有期労働契約に関して労働契約法の一部を改正する法律が制定され、5年を超えて反復更新された場合には、無期雇用労働契約に転換させる仕組みが導入された。しかし、日本において賃金差別が解消されてきたとは言い難い。企業にとっては、グローバルな競争にさらされる中で、固定費の削減がコストダウンには必須とみなされ、かえって正規雇用を削減する動きが拡大してきた。
 非正規労働の格差是正を図る上で、参考となるのが「オランダ・モデル」と言われる雇用形態である。オランダでは、パートタイムは非正規雇用ではなく、安定した常用勤務である。賃金の差は、フルタイム労働と勤務時間に比例しているだけで、同一労働同一賃金と位置付けている。その他の労働条件には格差を設けない。これにより、女性のパートタイム雇用は非常に高い水準となっている。
 日本において、ワーキングプアーと言われるような雇用形態は何としても改善しなければならない。そのためには、制度的な改革を進めるとともに、非正規労働者の職に対するプライドを高めるようなモチベーションを維持する意識の堅持が不可欠である。「現実世界にある程度の<適応>を示し、地に足の着いた生活者として役割を果たしながら、その場所から、不当な環境に対しては<抵抗>してゆくという振舞いこそが、その個人にとっても、社会にとっても、最も有効なあり方」(本田前掲書)ではないだろうか。キャリア教育はそうした二段構えの意識を醸成すべきなのである。
4職業教育に対する実践的取組
 現在全国的に、中学校及び高等学校における職場体験・インターンシップを実施する動きが高まってきた。
 平成24年度の公立中学校における職場体験の実施状況は、9,781校中9,582校になり過去最高の98.0%を示した。参加形態は、ほとんどが「原則として全員参加」である。
 また、公立高等学校(全日制・定時制)における実施率は79.8%だが、実際に体験した生徒の割合は29.9%であり、中学校と比べると参加率はかなり低い(「平成24年度職場体験・インターンシップ実施状況等調査結果」国立教育政策研究所)。
 大田区における平成24年度の区立中学校生徒職場体験では、すべての中学校が参加し、約3,600名の生徒総数のうち3,581名が様々な事業所での体験学習を実施した。うち製造業には158名の生徒が出向いて体験した。その経験を「ものづくり教育・学習フォーラム」というイベントの場で、生徒自らがプレゼンした。生徒自身の職業意識が高まる実践的教育になっているとともに、実施する事業所自体も中学生を受け入れることで職場の意識改革につながるようである。地元の工業団体である大田工業連合会は加盟企業に働きかけ、体験学習の場づくりを促進してきた。
 次に、工業系の専門学科を持った高等学校は区内に4校ある。その中で2校の取組を紹介する。
 大森学園高等学校の前身は、昭和14年に大森地区の中小機械業者が後継者養成のために設立した大森機械工業徒弟学校(戦後は大森工業高等学校)であった。平成17年に普通科を設置し、男女共学となった。
 この学校の特徴は、ベクトルが学校外にも向いており、地域活動などに積極的に取り組んでいることである。平成9年にはボランティア協力校に認定されている。
 有名な活動に、「空飛ぶ車いす」がある。日本で誰も使わなくなった車いすが多く廃棄されているが、韓国や東南アジアでは不足している。そこで、修理したものを手荷物で運んでもらっている。もともとは、近隣の特別養護老人ホームで使われている車いすを清掃・整備することから始まった活動である。地域貢献・国際貢献に長年取り組んできたが、平成23年・24年には大震災で被災した東北に出かけ、介護施設や老人ホームで車いすを修理するボランティアを行った。25年にも被災地を訪問し、漁業で使用する錘づくりや塩蔵わかめの芯抜き作業などの活動を行った。また、ホタテやホヤなどの養殖場の見学や、被災体験を聞くなどの交流もなされた。
 また、高齢者のインターネット教室を開いたが、マンツーマンでパソコンのサポートをするうちに高齢者とのコミュニケーションが実現できた。その他、壊れたおもちゃを無料で修理する「おもちゃの病院」活動、小学生を対象にした理科実験やサマースクール、区民の祭り「OTAふれあいフェスタ」での体験ブース開設、「ものづくりフォーラム」での工作サポート等々、土日と夏休みを利用して年間50日も校外活動を続けている。
 さらに学内では人間力を養うため、学習プランに役立つ PDCAサイクルや自己を見つめるためのエゴグラムにも取り組んでいる。
 もうひとつは、東京都が平成16年に創立した六郷工科高等学校である。全日制・定時制とは別にデュアルシステム科を設け、インターンシップよりも長い2か月にわたる就業訓練を実施し、それを卒業単位とする新しい取組を開始した。
 訓練の受け皿として、現在230社もの会社が登録し、毎年約80社が実際の受け入れを行っている。長期間同じ企業でものづくり体験をした生徒は、会社になじむとともに、欠かせない戦力とみなされ、卒業と同時に採用されるケースも多い。
 「平成17年度専門高校等における『日本版デュアルシステム』実施報告書」によれば、コミュニケーション能力、社会で自信となる「生きる力」、他人と協力・協働する能力、家族や家庭生活の大切さを理解する能力などにおいて、デュアル経験のない生徒や1年次での経験をした生徒と比べ、長期就業訓練をしたデュアルシステム科2年次の生徒の意識が格段と高まったことを検証した。体験と理論を二元的に学ぶことが、社会性と職業意識の向上に著しい効果をもたらしたのである。
 また、イベントを通して地域との交流を行ってきた。定時制課程では、平成18年から「ねぶた」を制作し、地元の商店街を練り歩くという「六郷ねぶた祭り」に参加してきた。また、デザイン工学科では、大田区特産のにんじんを用いたまんじゅうを製造販売している店舗に協力し、パッケージデザインを考案して、「おおた商い観光展」での売上に貢献した。デザイン工学科の生徒は、これまでも「全国高等学校デザイン選手権」で第3位に入賞するなど実力をつけてきた。
 地域とのつながりが、残念ながら途絶えたこともあった。生徒の社会性、職業意識を高めるには、企業と社会との連携を深めることが必須である。
 学校内に閉じこもっているだけでは職業という現実に向き合うことができない。この2校の取組は、殻を脱皮し、外と交流することで実践的な職業教育を遂行できることを示している。日本の雇用のあり方を立て直すには、若者の意識の確立が何より重要である。
公益社団法人全国工業高等学校長協会 機関誌「工業教育」2014年3月号掲載
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